SDGsコラム

2030年欧州新林業戦略(下)

  • 2021.10.28

30億本の植林を約束


【フィンランド総合林産大手UPMの育苗の様子】

2030年欧州新林業戦略では、2030年までに少なくとも30億本の植林を行うと宣言しています。同戦略では精密なロードマップを策定し、段階ごとの目標(マイルストーン)を設定するなど、必ず実現するとの決意を感じさせます。この戦略がどのような効果をEU林業にもたらすのか、大変注目されます。

(上)の最後に日本の人工林面積に関する動向でも簡単に触れましたが、伐採期に来た人工林蓄積及び人工林面積に比して、若齢人工林面積があまりにも脆弱で、私たちの次の世代には再び国産材資源が不足する恐れがあります。

過日、森林・林業に造詣の深く、国産材活用の重要性を説く建築家アトリエフルカワ一級建築士事務所の古川泰司代表とお話をする機会がありました。同代表も日本の人工林「少子高齢化」問題を大変心配するとともに、森林率69%と世界3番目、森林蓄積量も50億立方㍍を超えている日本と、森林率73%と世界で最も森林率が高いフィンランドを比較すると、人口一人当たりの森林面積はフィンランドの4.19haに対し、日本は0.19ha、人工林に絞るとフィンランドの1.25haに対し0.08haしかないと指摘し、「森林は唯一の無限の資源であり、木材は再生可能な建築資材であることを理解し、山に還元できる仕組みを重視するとともに、森林資源を大切に活用する必要がある」と語っていたことが印象的でした。

2030年欧州新林業戦略の目玉である30億本の植林という目標について概要を紹介します。
はじめに、生物多様性のある森林の再植林を実現するとあります。
「自発的な森林再生は、EUの森林地帯の増加を推進する主な力であり、農業と農村地域の放棄に関連している。それに加えて、積極的かつ持続可能な再植林を通じて、EUの森林を拡大する。強化された植林は、森林セクターで最も効果的な気候変動と災害リスク軽減戦略であり、実質的な雇用機会を生み出す可能性がある。また、緑や森林地帯は人々の心身の健康に大きな利益をもたらす可能性がある。
2030年EU生物多様性戦略は、生態学的原則を完全に尊重し2030 年までに少なくとも30 億本の追加の木を植えることを約束した。時間が経つにつれてEUの森林被覆の増加に貢献しEUの炭素吸収源に、そして森林資源としても増加する。また、社会の認識とコミットメントを高め、2050 年までに最初の気候中立大陸になるという目標の達成に貢献する」

2030 年までに30 億本の追加の木を植えるためのロードマップ

「このロードマップは、植樹、カウント、モニタリングの明確な基準を定め、目標を達成するための進捗状況を追跡するために不可欠な強力な監視コンポーネントが含まれている。これはEU委員会と欧州環境機関の専門知識に基づいて構築される。モニタリングデータに基づいて、委員会と欧州環境機関は傾向と実施状況の評価を提供する。国、地域、地方レベルでの植栽誓約に関する情報をまとめるために、すでに使用されている技術的解決策、すなわち大気質モニタリングとの相乗効果が求められる」

EU森林の量と質を改善するための森林所有者等への金銭的支援

「生物多様性に優しい持続可能な森林管理は、森林の主たる世話人である森林所有者と管理者の動機、関与、行動なしには起こらない。特に小規模私有林所有者と管理者は、生計を直接森林に依存することが多く、彼らの主な収入は木材の供給から来ている。他の利点、特に生態系サービスの提供では、めったに報われない。これは変更する必要がある。森林の所有者と管理者は、森林管理の実践を通して、生態系サービスを提供する原動力と支援を受けなければならない。
既にEU共通農業政策(CAP)は2014~2020年、森林と森林管理に関連して67億ユーロの財政支援を約束し、気候関連のリスクへの適応と回復力に対する財政的支援をすでに提供している。主に植林(27%)、森林火災と災害の防止(24%)、および回復力、生態学的および社会的機能への投資(19%)等を目的とした EU の政策目標を支援するためのものである。
新たなCAP(2023〜2027 年)では、国のニーズと特異性に応じた森林を設計する柔軟性を高め、官僚的形式主義を減らし、欧州グリーンディールとEU 環境の間の相乗的アプローチを確保する。委員会はこの戦略の目的のために、利用可能な農村開発資金の取り込みを増やすよう努める。
2023年から2027年までの CAP 戦略計画に関する加盟国への勧告では主に、持続可能な森林管理と持続可能な再植林の促進、多機能性と炭素吸収源としての森林の役割の強化、森林の保護と森林生態系の回復による生息地と種の良好な状態への回復、そして農村地域の社会経済的発展を促進する気候変動に対する森林の回復力の構築を目指している。
CAP 戦略計画の策定に森林の利害関係者をよりよく関与させるために、加盟国はさらなる行動をとる必要がある。EU委員会は、森林関連の適切な設計および実施に関する情報を共有するための新しい手段を提供し、加盟国の専門家間の交流を促進し、現場を含む地域および地域のネットワーキングを支援するデモンストレーションイニシアチブなど資金を一貫して使用するための実証ツールを提供する」

「30 億本の追加の木を植える」誓約に向けたEU委員会のロードマップ

第一段階
2022 年第1四半期までにワーキンググループの森林と自然で開発中の生物多様性に配慮した植林に関するガイドラインを公開する。また、アグロフォレストリーと都市樹木についても取り上げる。
第二段階
参加する人のためのツールキット(ラベル、モデル証明書、名誉宣言テンプレート)を作成する。主要な成果物の達成に照らして、委員会は誓約のブランディング(ビジュアルアイデンティティ、ソーシャルメディア、ハッシュタグ、スローガン)も開発する。
第三段階
ウェブサイトで 30 億本の追加樹木誓約のための専用ウェブページを立ち上げる。報道機関やメディアの資料を作成し、ソーシャルメディアでの存在感を確保する。参加者とパートナーにコミュニケーションツールキットを提供して、独自のコミュニケーションキャンペーンをサポートする。
第四段階
2022 年第1四半期までに樹木監視プラットフォームを開発し、ヨーロッパの森林情報システムをウェブサイトで利用できるようにする。システムには植栽記録を提出するためのフォームへのリンクも含まれる。
第五段階
2022 年第1四半期までに EUツリーカウンターを開発する。これにより2020 年 5 月から現在までの間に EUに植えられる追加の樹木の推定数が提供される。カウンターは他の既存のカウンターシステムとリンクし、生態学的の原則を完全に尊重して植えられた樹木のみを説明する。
第六段階
欧州委員会はEUで植林するための既存のすべての公約の概要、植林された樹木の数え方を含むその枠組み条件をまとめ、2022 年第1四半期までに政策概要とコミュニケーションを作成するための調査を開始する。
第七段階
2022 年第1四半期までに誓約のガイドラインと視覚的アイデンティティを発表し、利害関係者のリストを特定し、すべての利害関係者のため会議を開催する。

2030年欧州新林業戦略における30億本の植林という壮大な目標実現に向けた具体的な取り組みの多くは22年第1四半期に枠組が決まっていきます。
21年11月1日~12日にかけて、グラスゴー(英国)でCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が開催され、重大な局面に来ている気候変動問題への打開策として、2030年欧州新林業戦略を踏まえCO2吸収源である森林と、長期にわたり炭素を貯蔵する木材製品の重要性も指摘されると予想されます。米国では民主党政権が気候変動対策に5000億ドル(約57兆円)余りを充てる計画が伝えられています。世界が大きく変化してくるのではないでしょうか。