SDGsコラム

「誰も置き去りにしない」農福連携の取り組み

  • 2021.8.31

農業生産法人 株式会社 彩の榊

新鮮で品質の確かな国産の榊にこだわり、製造、販売している農業生産法人「株式会社 彩の榊」(東京都青梅市、佐藤幸次代表取締役)様を訪問し、同社が取り組む営農型太陽光発電事業について、佐藤代表取締役にお話を伺いました。同社が販売する榊は、クボデラ株式会社(東京都中野区、代表取締役 窪寺伸浩)も神棚・上棟セット事業で定期的に仕入れさせていただいておりますが、品質の確かな同社の榊はリピーターも多く、大変信頼されております。

耕作放棄地を活用した営農型太陽光発電事業

現在、同社では耕作放棄地を活用して開設する太陽光発電設備の下の空き地を活かし、ここで農作物を育てる「営農型太陽光発電」制度を活用した事業に取り組んでいます。既に複数の地域で同事業を開始していますが、同社事業の特徴は、パネル設備の下の空き地を活用して、榊の畑を設け、植栽、収穫するものです。太陽光発電本体の収入に加え、榊を育て販売することで、地域に農業収益と雇用も創出し、継続性の高い事業としていくことを最大の目的としています。

現在、この事業はさらに農福連携という新たな方向性を打ち出し、地域の福祉団体等との連携を開始し、農業と福祉で農地再生を目指し、SDGsの理念である「誰も置き去りにしない」世界の実現に取り組んでいます。彩の榊様ではいち早くSDGsへの取り組みを宣明しており、そうした面でも勉強になります。

このほど、第一号として福島県いわき市での営農型太陽光発電事業、そして農福連携事業に踏み出しました。今後、こうした考え方に基づき、全国の耕作放棄地を活用し、地域に新たな収入と雇用を創出する活動を広げていく方針です。

営農型事業で全国展開を目指します

同社が取り組む営農型太陽光発電事業は、同事業のために設計された太陽光発電設備の下に榊の畑を設置し、榊の苗木を植栽、収穫していくものです。太陽光発電事業会社と提携し、耕作放棄地を賃借し売電事業を行うとともに、成長の早い榊を育て新鮮で品質の確かな榊を全国に販売していきます。

【太陽光発電設備の下で榊を植栽します】

佐藤社長によると、榊は日陰で育つことから、ある程度の遮光が必要で、太陽光発電パネルが遮光の役割を果たします。この営農型太陽光発電事業に向けて独自設計された背の高い太陽光発電パネルの下での農業となるため、雨天でも作業を行うことができます。さらにパネルが厳冬期の霜害を抑制してくれます。パネルは10cmで緯度の間隔があいており、パネルに当たった雨水はすべて榊の苗木に流れるようになっているそうです。

農福連携型事業も始まりました

同社の榊出荷先は、ホームセンター、スーパー、神社などです。同社では国産の榊需要は年間2億束とみており、需要に対し供給が追い付かない状況だそうです。東京都青梅市、埼玉県飯能市、和歌山県田辺市をはじめ、全国7カ所に圃場を運営しており、榊の苗木出荷は年間12万本(2020年度)にのぼるとのことです。営農型太陽光発電事業拠点も拡大しており、特に福島県いわき市では6㌃の農地に太陽光発電パネルを設置、ここに270株の榊を植栽しました。この事業は福島県やいわき市も応援する農福連携の「ミライ型農業プロジェクト」の第一号でもあります。

この農福連携プロジェクトでは、榊の商品加工などに関し、地域の社会福祉法人とも連携し、農業を通じて新たな仕事と収入を確保することで障がい者の自立を支援していくものでもあります。既に行っている埼玉県の社会福祉法人との連携事業では、榊の加工に関して、枝の選別、合わせ(組み)などの実地指導も行われました。

【障がい者福祉施設との協業】

同社では福島県だけで今後、複数の営農型太陽光発電事業を展開していく計画です。同社の「未来年表」によると、福島県外を含め、2030年正規雇用2000人、総発電量2.2GW、榊総出荷2億束を目指します。また、営農事業の一環として、養鶏や養豚、サツマイモ、ジャガイモ、山わさび、ウド、シキミなどの栽培にも農業の領域を広げていく方針です。まさに2030年をゴールとするSDGsに沿った高い目標であると思います。

国産の榊生産販売事業は、2014年に東京都農林水産振興財団の「東京都農林水産後継者奨励賞」などを受賞するなど、各方面から注目されていますが、ここまでの道のりは大変険しかったと振り返ります。実家が生花店で榊も取り扱っており、国産の榊が高値で取引されていることから、一念発起して榊事業に特化し独立し、自らや山に入り毎日急斜面を上り下りしてやっと収穫した国産の榊が、市場では驚くほどの安値にしかならず、赤字続きでアパートを追い出されるという経験もしたそうです。

しかしながら、クレームに鍛えられながら「造り榊」の技術を高め2011年3月10日に会社を設立しました。会社設立の翌日、東日本大震災が起き、その後も大変な苦労をしたそうですが、国産の榊のすばらしさを訴え、事業が軌道に乗ってきたそうです。

榊は生命力の象徴、国産榊で地域の活性化も

「神」の「木」と書いて「榊」。榊は神様が降り立つ「依り代」という役割があります。日本人の信仰に欠かせないものだからこそ、地元で収穫された本物の榊を使うことが大切です。同社では長年、市場を席捲してきた中国産にとって代わることを目指しています。

中国産は中国での生産から日本で消費者の手に届くまでに40日以上かかることもあります。榊は生命力の象徴でもあり、瑞々しく青々としたものを使うべきです。榊は水分が多く長持ちし葉の先端まで虫食いなどがないことも重要です。品質が確かな国産の榊を収穫・加工して、迅速に皆様のお手元までお届けることが大切です。価格面でも同社の榊は中国産と十分対抗できます。営農型太陽光発電事業を推進していくことで、さらに供給安定性が高まり、同社の榊の価格優位性も発揮できるのではないでしょうか。

当社も彩の榊の皆さんと連携して、国産の青々とした榊を多くの人にお届けいたします。当社もSDGsへの取り組みをスタートさせたところです。今後とも彩の榊様とともに、取り組んでいきたいと考えます。

【ホームセンターに販売している元気サカキ】