建築との連携も重要なカギに
【適切に手入れされた吉野の人工林】
今回は、このほど閣議決定しました森林・林業基本計画と建築関係者の連携について説明いたします。
名称から考えると、林業・木材産業界を前提とした計画のようですが、森林の恵みは林業・木材産業界にとどまらず、森林の多面的な価値を享受するすべての人々を利害関係者としています。
特に建築関係者との連携では、SDGsとの関連、さらに2050年カーボンニュートラル実現に向け、同計画でも積極的な木造・木質化建築物に取り組むとあります。健全で循環する森林を実現するとともに、二酸化炭素を大量に長期貯蔵する木造・木質化建築等を積極的に都市に増やしていくことで、都市に第二の森林を生み出すことを目指すという考え方です。同計画の閣議決定を受け、建築物の木造・木質化に向けた国の施策は今後さらに充実してくると考えます。
SDGsとの関連を強調
政府は2021年6月15日、林政審議会(会長=土屋俊幸東京農工大学名誉教授)が策定した「森林・林業基本計画」を閣議決定しました。森林・林業基本計画とは、森林・林業基本法に基づき、我が国の森林・林業施策の基本方針を定めるもので、森林・林業をめぐる情勢の変化等を踏まえ、おおむね5年ごとに変更されます。前回は平成28年5月に策定されました。
今回の計画では、SDGs(持続可能な開発目標)を踏まえた森林・林業に関する考え方が色濃く示されており、SDGsの目標と同計画の関連付けが目を引きます。下記に同計画の全文、リーフレット、SDGsとの関連を強調した主なポイントに関する資料を添付しました。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/plan/attach/pdf/index-10.pdf(全文)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/plan/attach/pdf/index-3.pdf(リーフレット)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/plan/attach/pdf/index-8.pdf(主なポイント)
同計画ははじめに、前回計画に基づく施策の評価等が行われ、そのあとに「森林の有する多面的機能の発揮ならびに林産物の供給および利用に関する目標」、「森林および林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」と続きます。
【SGEC/PEFCの認証材杉丸太】
国産材自給率50%突破も
下表は「木材供給の目標および用途別の木材利用量の目標」です。
本格的な国産材時代が到来し、国産材を原材料とした大型製材工場が増加し、長年、外材に原材料を依存してきた針葉樹合板工場も国産材への原材料シフトを進めてきました。また、欧州産針葉樹比率の高い構造用集成材やカナダ産SPF製材が大半の2×4製材の分野でも、国産材を原材料とする動きが顕著です。
さらに再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff=FIT)を背景とした木質バイオマス発電用燃料という新たな需要分野が登場し、国産材利用量を底上げしてきました。また、CLTや大断面構造用集成材、構造用LVLに代表的ですが、主に非住宅木造建築向けで新たな木構造技術が開発され、ここでも国産材が主要な原材料となっています。このほか、国産材の輸出も新たな需要分野になりつつあります。
同計画では令和12年には国産材利用量4200万㎥を見込んでいます。これは令和元年比で1100万㎥、ほぼ35%の増加となります。大型国産材製材工場の台頭、合板、構造用集成材原材料の国産材シフトが背景にありますが、見過ごせないのは上記した木質バイオマス発電燃料用としての国産材等の需要の大幅な増加です。
令和元年の総需要に占める国産材利用量(自給率)は38%まで上昇してきました。同計画では令和12年には48%まで高まるとの見通しです。現在の輸入木材価格高騰と供給不安が慢性化するようだと、同計画の予測を上回り、国産材利用率は50%を超えるかもしれません。
木質バイオマス発電燃料需要が大幅増
山の木を燃やして発電をするという手法への反発も聞きます。この仕組みが様々な公的助成の上に成立していることを指し、林業の自立を阻害しているとの指摘もあります。欧州でも木質バイオマスは盛んですが、欧州では燃焼された木材は主に熱源として地域で活用されるのに対し、日本では熱量の非効率な消費形態である発電が主となっていることへの疑問の声もあります。
ただ、木質バイオマス燃料需要が、これまで山に切り捨てられてきた間伐材、除伐材等の需要を生み出したことは確かで、谷底に切り捨て間伐材が放置されるのではなく、発電用チップ工場まで運ばれることで、山がきれいになり、林家に新たな収入源をもたらしたことも事実です。丸太だけでなく、これまで廃棄されてきた枝葉、樹皮、根株も燃料となり、収入源となる点も強みです。
木質バイオマス発電およびその周辺事業の創出で、新規の雇用をかなり生み出したことも評価される点だと考えます。再生可能エネルギー比率の向上という国策に対し微力ながら貢献しているということもできます。
同計画では燃料用総需要を令和12年の時点で1600万㎥、うち国産材での供給量(利用量)を900万㎥と見込んでいます。ほんの10年前まではゼロに等しい需要分野ですから、劇的な変化といえます。残りの700万㎥はチップ、ペレット、PKS等の輸入となります。
国産材の課題
では国産材供給は問題ないのでしょうか。現状をみても輸入木材の供給不安と価格高騰に対し、国産材製材は十分な代替供給機能を果たしておらず、同様に急激な価格の高騰と供給制約が起きています。木材価格を安定させるに足る国産材供給体制の整備にはまだ時間がかかるといえそうです。
下表は同計画で示した「目標とする森林の状態」です。
森林面積に変化はありませんが、立木は成長するので森林の総蓄積量は令和22年の段階で61億8000万㎥と令和2年比で14%増加するという見通しです。森林蓄積量の推移は、昭和41年18億8700万㎥、昭和51年21億8600万㎥、昭和61年28億6300万㎥、平成7年34億8300万㎥、平成14年40億4000万㎥、平成24年49億100万㎥で、立木の成長に合わせて大幅に増加しています。
昭和から平成にかけては、まだ主伐比率が小さく、多くは除伐や間伐だったことから、蓄積速度が速かったとも言えます。この間の木材需要は輸入木材が多くを担ってきました。輸入木材なしでは戦後復興は大幅に遅れ、高度成長局面での木材需要にも対応できなかったと考えられます。
戦後植林された杉、桧等針葉樹人工林は年々生長し、今や樹齢50年生以上の森林が大きな比率を占めるようになっています。この森林が本物の循環可能な天然資源となるためには、積極的に活用し、伐採した分を再造林することによって、はじめて実現します。理論的には輸入木材がゼロになっても、国内の森林資源から供給される原材料だけで十分、木材需要を賄える計算です。
輸入木材ゼロということは、さすがに現実的ではありませんが、伐採期に来た森林資源を活用するということは国の最重要施策です。近年、国産材を中心とした木材需要拡大に向け、多くの公的事業が打ち出されていることに皆さんもお気づきと思いますが、国産材活用は待ったなしの局面に来ているのです。
上表で注目されるのは、年間の森林成長量が令和2年で7000万㎥、その後も年間6300万~6500万㎥で増加が見込まれるという点です。前記した年間8000万㎥以上の木材総需要には届きませんが、それに近い成長量です。国産材利用量(需要量)対比では年間成長量のほうがはるかに大きく、この数字だけ見ると、製紙原材料などを含め、日本の木材需要の大半は国産材で賄えるのではということになります。
ただ、森林蓄積量については注意してみていく必要があります。蓄積量とは人工林、天然林を問わず、すべての森林の合計ですが、実際には手入れが出来ていない森林、林道や作業道などのインフラ整備ができておらず伐出が困難な奥地森林、需要面で活用が難しい森林、採算性が乏しい森林等あり、蓄積量のすべてを利用できるわけではありません。また、森林には水源機能、治山機能、レクリエーション機能、生物多様性機能等があり、すべての森林が木材産業のためにあるという考え方は正しくありません。
また、森林蓄積は大きいとしても、それを伐採、搬出する能力が追い付いていません。林業従事者の高齢化、後継者難の問題は解決できていません。国は高性能林業機械や最新のテクノロジーを活用した森林計測などの導入を働きかけていますが、補助金があるにしても導入にかかる自己負担費用、さらに維持費用を必要とします。
また、前記した林道、作業道の敷設負担、徐間伐をはじめとした森林手入れ負担等も、公的助成金はありますが、いずれも人海戦術に依存した事業であり、適切な実施は容易でありません。
【タワーヤーダを使用した架線集材の様子】
戦後植林された国産材立木の多くは50年生以上となり、間伐から主伐への移行が目前です。国は、主伐後、再造林するという施業のパッケージ化を推進していますが、長期にわたる林業の安定的な採算性が確立されないうちは、主伐再造林の定着も容易ではないと思います。これは過去、植林に際し、立木の成長という確実な含み資産の拡大を期待しながら、現実にはそうはならなかった林業家の苦い思いが少なからず影響しています。
主伐再造林が適切に実施されてはじめて、持続可能な森林資源を実現するわけで、主伐への移行と再造林は同計画でも最重要課題の一つに位置づけられるとともに、主伐後再造林が進まない現状に対する危機感もあえて記載しています。
上記の表の森林面積は育成単層林、育成複層林、天然生林の3つに分類されています。このうち、育成単層林は、人の手で植林された杉、桧等針葉樹人工林を指します。同計画では育成単層林の目標とする状態について、令和22年には970万haを見込んでいます。少し減少するとの見通しですが、このことが意味するのは、国産材需要量見通しを踏まえ、経済性のある生産森林規模はこの程度で循環させていくとの考え方に基づいています。
同計画には、指向する森林の状態に関する参考数値が示されており、木材生産機能の発揮が特に期待されるなど育成単層林として整備される森林面積は660万haにとどめ、育成複層林に340万haを誘導するとあります(上表の令和22年時点の育成複層林面積見通しは190万ha)。また、天然生林は公益的機能を主眼としています。
SDGs時代の森林・林業
同計画では国産材時代が到来し、今後への期待の高まりが随所にみられる一方、林業を中心とした様々な課題およびその対策に関しても具体的に記載されており、今後の森林・林業政策に反映されてくると思います。
今回の計画で注目されるのはSDGs(持続可能な開発目標)に言及している点で、SDGsの目標と関連された記載が目につきます。前回の計画では、「森林・林業・木材産業は国の成長戦略」という表現が目立ちましたが、変化してきました。この変化は決して後退ではなく、むしろ、「2050年カーボンニュートラル」という菅政権の宣言を踏まえ、これまで以上に森林・林業・木材産業が重要な立ち位置を占めるということを示したものであると解釈できます。
先ごろ、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物における木材の利用の促進に関する法律」が2021年10月1日に施行されることが決定しました。長い名称ですが、2010年10月に施行された「公共建築物等木材利用促進法」を改正し、民間建築物を含む建築物一般で木材利用の促進を目指す法律です。建築物の木造・木質化推進は既に様々な公共事業で打ち出されていますが、この法律改正はそうした行政の方向性をさらに明確なものとするでしょう。関連助成事業が今後、目白押しとなることも予想されます。
また、先ごろ森林環境税・森林環境譲与税が創設されました。この税の使途は、森林整備を中心に、木材需要拡大のための川下施策も拡充させていくというものです。国民から年間600億円規模の税金を徴収(森林環境税)し、森林整備や木材需要拡大対策に向けて税を投入する(森林環境譲与税)仕組みです。恒久税であり、国の森林・林業・木材産業にかける意気込みを感じます。
国は気候変動対策として、「2050年カーボンニュートラル」「グリーン社会実現」という目標を国民に提示しました。この目標を実現する切り札として、森林および木材製品の果たすべき役割は極めて大きいといえます。同計画でも触れていますが、森林だけでなく、木材を原材料とした各種木材製品の炭素固定機能に関する公的な算定が期待されるところです。
同計画では、森林・林業・木材産業を原動力とした山村地域の活性化にも触れています。山村地域は大規模農業を展開するには不適で、産業の中核は林業です。しかしながら、多くの地方部に共通していることですが、コミュニティの人口減少・過疎化・急激な少子高齢化・社会福祉費用の増大等に直面しており、将来的な地域コミュニティの消滅も危惧される状況です。
SDGsではその根本精神に、「誰一人取り残さない」とあります。山村地域の活性化を実現するには林業を中核とした産業の活性化以外にありません。同計画でも指摘していますが、林業を中核とした六次産業化を考えていく必要があります。
上記で紹介したリーフレットに、同計画は誰のための計画?とあります。決して林業・木材産業界だけでなく、様々な生活者のためのものであると明記しています。この生活者と林業・木材産業界をつなぐのが建築関係者であると考えます。
同計画の「森林及び林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」では次世代の森林づくりにおいて、地域の森林・林業・木材産業関係者の参画を得ながら取り組みを進めるとあり、ここには建築関係者、さらに消費者も想定されています。
近年、設計やデザイン関係者のなかにも、森林・林業・木材産業のなかに積極的に飛び込み、生産地で木材に関する様々なことを勉強する人が増えています。その一方で、木材関係者からは、設計の人は木材のことを何も知らないと指摘されることも少なくありません。
ただ、これまで述べてきたように、建築物の木造・木質化は明確な国の政策の核心であり、今まで木造に縁遠かったゼネコン関係でも、木構造設計・施工部署が新設されるといった大きな変化が出ています。
私たちは、日本の森林が本当に持続可能な資源となることを目指し、私たちができる手法で日本の森林と林業を良くする方法を考えていきたいと思います。「クボデラSDGsチャレンジ2021」を踏まえ、積極的に木を使い、再造林を行うことではじめて、日本の森林は本当に循環可能なものとなることを、多くに人々に知ってもらう活動を行ってきます。